
今日も元気な子供達の声が児童コーナーに響く
何人か子供達にせがまれて何冊も物語を読み聞かせる
「ねえ、笠原のお姉さん」
小学校2〜3年生の女の子・冬原海ちゃんが私の隣に座り、弟の洋君は海ちゃんの隣で静かに絵本を読んでいる。
「なあに?海ちゃん」
冬原姉弟はよく遊びに来ているので私も記憶している姉弟だ。
お父さんが海上自衛隊の人だから、ほとんど家にいないらしく、母親に連れられて時々遊びに来るのだという。
ちょっとしたドライブをかねているらしい(母親の話による)
「笠原のお姉ちゃんの事、郁お姉ちゃんって呼んでもいい?」
「?別に構わないわよ。でも、どうして?」
今まであまり気にしていなかったけど『笠原のお姉ちゃん』と呼ばれることは多いけど『郁お姉ちゃん』と呼ばれるのあまりなかったな
もっとも、それは結婚する前の話だけど・・・
結婚した後は結構『郁お姉ちゃん』と呼ばれることは増えた。
まあ、未だに『笠原のお姉ちゃん』と呼ぶ子は多いけどね
ちなみに図書館内では『笠原郁』で通している。
『堂上』だと堂上篤一正の事を呼んでいるみたいだからと・・・言われたので・・・
「あのね、大地君に聞いたの。郁お姉ちゃん、もう『笠原』ってお名前じゃないって。今は『堂上郁』だから『笠原のお姉ちゃん』はおかしいって言っていたよ」
「え?大地君?」
「うん、笠原大地君。同じクラスなの」
にっこり微笑む海ちゃんに私は一瞬眩暈がした。
まさか、こんな繋がりが出来ているとは・・・
笠原大地は私の甥っ子だ
「海ちゃんは大地君とは仲がいいの?」
「う〜ん、郁お姉ちゃんのお話をするまでは全然仲良くなかったよ。でもね、私が時々ここで郁お姉ちゃんにご本を読んでもらっているってお友達と話していたら大地君にいろいろ郁お姉ちゃんの事を聞かれたの。でね、郁お姉ちゃんと一緒に写っている写真を私に見せてね『お前が言っている笠原のお姉ちゃんってこの人か?』って」
一生懸命話してくれる海ちゃん
「私がね、『そうだよ』って答えたら『なんでお前ばかり郁姉ちゃんにご本読んでもらえるんだよ!僕はあんまり読んでもらったことないのに〜』って怒りながら泣き出したの。ねえ、郁お姉ちゃん」
「なあに?」
「どうして、大地君にご本読んであげないの?」
可愛らしく首を傾げる海ちゃんにまさか家族の確執があって・・・なんて大人の事情を話せるわけがない。
「う〜ん、実はね、お姉ちゃん、大地君のおばあちゃんと喧嘩してなかなか遊んであげることが出来なかったの」
「けんか?」
「うん、もう今は仲直りしているから大地君にもご本を読んであげているわよ」
コレは嘘じゃない
中兄ちゃん・・・大地の父親に頼まれて月に一度遊びに行っているというか公休日を狙って誘いに来る・・・篤さんを巻き込んで・・・
お蔭で月に一度は中兄ちゃんの家に篤さんと一緒に行くことが習慣化してしまったほどだ・・・
「でもね、大地君はお姉ちゃんよりも堂上のお兄ちゃんにご本を読んでもらうほうが嬉しいんだって」
数ヶ月前、上官である堂上篤さんと結婚したことをきっかけに、私は家族と少しずつだけど距離を縮めている。
大地はそのリハビリみたいなモノだと後で中兄ちゃんに聞かされた
「ええ〜大地君、堂上のおじちゃんにご本読んでもらっているの〜いいな〜」
「あら、海ちゃんも堂上さんにご本読んで貰いたいの?」
「うん!堂上のおじちゃんの声ってねパパに似ているの!パパがお話してくれているみたいで好き」
「ぼくもどうじょうのおじちゃんすきだよ」
海ちゃんの隣で静かに絵本を読んでいた洋君も同意する
「じゃあ、堂上さんにご本読んでもらおうか。ちょうど、こっちに来るみたいだし」
こちらに向かってくる篤さんの姿を見つけた海ちゃんはパッと顔を輝かせると洋君の手を取ると一目散に篤さんに向かって走っていった。
「堂上のおじちゃん!!ご本読んで〜」
篤さんの腕を引っ張りながら児童コーナーに歩いてくる三人はまるで親子のようだ
ちょっと嫉妬してしまいそうな光景
篤さんは困ったような表情を浮かべていたけど私と視線が合うと優しい笑み浮かべてくれる。
「今日は笠原のお姉ちゃんにご本を読んでもらって大地君に自慢するんじゃなかったのか?」
「郁お姉ちゃんには読んでもらったから、今度は堂上のおじちゃんに読んで欲しいの!で、明日大地君におじちゃんにご本読んでもらった事言うの!大地君ばかり堂上のおじちゃんにご本読んでもらえるのずるいもん!」
あらあら、どうやら海ちゃんは大地と争っているみたいね
クスリと私が笑うと海ちゃんたちは首を傾げる
「郁お姉ちゃん?」
「まるで海ちゃんは、大地君と競争しているみたいね」
「!?」
驚いたように私を見る海ちゃん
どうやら図星らしい
そこで私はある提案を持ちかける。
「そうだな〜月に一度大地君のお家に遊びに行くから、その時海ちゃんと洋君も大地君の家に遊びにおいで。大地君にはお姉ちゃんからお話しておくから」
「いいの?」
遠慮がちに呟く海ちゃんの頭を軽く撫でて
「もちろん、海ちゃんと洋君が嫌じゃなければのお話だけどね」
「行く!!遊びに絶対に行くから大地君の家に行く時は大地君より先に教えてよ!」
あらあら、ここでも張り合うみたいね
「判ったわ。でも、なんでそんなに大地君と張り合うの?」
「・・・・・・・・・だって、大地君、郁お姉ちゃんの事すっごく自慢するんだもん!背が高くて、美人で、優しくて、お姉ちゃんにぎゅっとされると嬉しいって!私だって郁お姉ちゃんの事、大好きなのに・・・」
海ちゃんの言葉に、篤さんに手を握ってもらっていた洋君はトテトテと私の側に来ると篤さんの手を離して、私にしがみついてきた
「ぼくもいくおねえちゃんだいすき!」
「ああ〜!!洋ずるい!!私も郁お姉ちゃんにぎゅっとしてもらいたいのに〜!!」
キャンキャン騒ぎ出した海ちゃん
その様子を篤さんは苦笑しながら見守っていた。
私が冬原姉弟から開放されたのはそれから一時間後のことだった・・・